2018年03月24日

架空ケース:「無能感 自分の感情なのか母親の感情なのか区別できない」

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<架空のケースを元に、実際に起こりがちな悩みとカウンセリングのアプローチを紹介しています
 自分自身の無能感を深く感じていて意欲的になれない、Eさん(30代 会社員 女性)。

 Eさんは理系の大学を卒業し、技術者として仕事をこなしてきました。持ち前の協調性と丁寧な仕事ぶりが買われ職場でも評価されていました。しかし、中堅として責任の重い仕事を任されるようになってきてから不安が強くなり、意欲が持てなくなりました。現場にいる作業員を指導することが出来ず、些細なことでも上司の助言なしには自身で判断を下すことが出来ません。次第に会社に行くことがつらくなり、頭痛や吐き気で会社を休むことも多くなってしまいました。

 Eさんは人並み以上の能力があるにも関わらず、自分は無能であるという感覚がぬぐえません。 カウンセリングでその「無能である」という感覚を掘り下げ、これは一体何なのだろうと考えていきます。

感情と向きう
 Eさんの母親は、いつもわがままなEさんの兄に振り回され疲弊していました。父親は、穏やかで優しいけれども、きちんと息子と向き合い叱ることのできない人でした。Eさんは、「頼りない父親の代わりに自分が母親を助けなくてはならない」と思っていたといいます。Eさんの母親も「ママの気持ちをわかってくれるのはEちゃんだけ」と言って、いつも愚痴をこぼしました。

 Eさんにとって印象的な出来事があります。高校1年生になったばかりのある日、母親が突然家出し1か月ほど帰って来なかったそうです。なによりショックだったのは父親や兄だけでなく、自分にも何の理由も言わなかったことです。その時、今まで母親を助けようと頑張ってきた自分は一体何だったのかと強い無力感に襲われたといいます。

 そこから見えてきたのは、親に対する感情でした。Eさんが「親から愛されたい、大事にされたい」と思ってやってきたはずだったことが、結局「親から利用された」という気持ちしか生まなかったということでした。

 そして、感情を再体験する中で、「どうせ私は無能だ」「誰か助けて欲しい」と呪文のように唱えている自分自身に気づいたのです。それは、「どうせママは母親失格よ」「どうしてパパはママを助けてくれないの」という母親の口癖とそっくりでした。Eさんは、「これは自分の感情なのだろうか。それとも母親の感情なのだろうか」と思ったといいます。

 でもこの感情を、「区別できない」と思っているということは、「これは自分の感情ではなさそうだ」とわかっているということでもあります。

「取り入れ」ること
 私たちは親や兄弟、友だちなど、自分にとって重要な対象を「取り入れ」ます。取り入れるのは、彼らの態度や感情、行動などあらゆることです。思春期の子どもが、アイドルの髪型や話し方をまねする「同一化」という行動がありますが、これは自覚的に行わるものでやめることは簡単にできます。しかし、無意識に無条件に行われてしまう「取り入れ」は、なかなかやっかいなものです。

 親は通常、本人の意志とは関係なく、生まれた瞬間から最も身近で重要な対象です。私たちは、「母親や父親のようになりたい」と思う以前に、無意識に親を「取り入れ」ます。子どもは「親が育てたい様に育つ」のではなく「親の様に育つ」のです。

 なかでもやっかいなのは感情の「取り入れ」です。子どもが親の感情を自分の物のように思い込んでしまうことは良くあります。また、親の願望を無意識に取り入れ、それを実現しなくてはならないと思うこともあります。

 親が自分自身を無力な存在と感じており、いつも誰かに助けを求めている場合、子どもは自身を無力な存在であると感じると同時に、親から愛されるために親を助けなくてはならないとも思うものです。

 それは、どちらも親から捨てられないため、自分が生き残るために必要なことです。身体が食物を求めるように自然発生的に行われるのです。ただ、生き残るため、自分自身を守るために行われていたことが、成長するにつれその人自身の苦しみのもとになってしまう場合もあります。

感情の分離
 自身の感情とよく向き合ってみると、Eさんの中には母親から守られた、世話をしてもらったという実感がないことに気づきました。母親が世話をしていたのはわがままな兄の方であり、Eさんは母親から愛されようと従順で手のかからない子どもであろうとしたために母親にとっては世話をする必要のない子どもになってしまっていたのです。

 Eさんの抱える無力感、無能感は、母親を助けられなかった自身の体験も関係していました。そうやって思い返してみてはじめて、Eさんは親に頼らずいつでもひとりで頑張ってきた自分自身に気づいたのです。

 そうして初めて「いつでもひとりで頑張って来た自分が無能であるはずがない」とEさんは強く実感するようになりました。その後もEさんは責任の重い仕事を前にすると、「私にできるだろうか」と不安になることはありますが、不安感はEさん自身の真面目さと完璧主義的な性格から来るものであり、それと母親から取り入れた無能感は別のものだということがわかるようになりました。

 自身の完璧主義とどう付き合うかというところはこれからの課題ではありますが、無能感にとらわれて仕事に意欲の持てない状態からは脱することができました。

 私たちは誰でも、親を取り入れて「偽りの自己」を作り上げるものです。また、「自分がない」「自分は空っぽだ」と感じている方もいることでしょう。でも、本当はそんなことはありません。カウンセリングでは「取り入れた親」と「自分自身」の感情の区別をつけ整理するなかで「本当の自分自身」に気づいていくことができるのです。
posted by MSCOスタッフ at 22:01| 架空ケース

2017年08月11日

架空ケース:「依頼されたことができるかどうか不安だ」

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<架空のケースを元に、実際に起こりがちな悩みとカウンセリングのアプローチを紹介しています>
 上司に頼まれたことができるかどうか不安になってしまった、Dさん(20代後半 会社員 男性)。

 Dさんは、与えられた仕事はコツコツと取り組み、確実に結果を出してきました。その仕事ぶりで上司や同僚からの信頼は厚く、入社5年目の春に上司の推薦で主任に昇格しました。
 そんな中、上司から「これまでに担当した仕事の成果をまとめて、来月の会議で発表して欲しい」と頼まれました。この会議は来年度の予算決めの参考とされる重要な会議です。Dさんは早速資料作りを始めたのですが、次第に不安が大きくなり、憂うつな気分になってきてしまいました

悲観的な予測
 今、Dさんを不安にしていることを言葉にするように促すと、資料作りを進めていくうちに考えるようになったことを振り返りました。
 「これまで担当した仕事を振り返ってみましたが、こんなことを成果と言っていいのだろうか?求められている水準に達していないのではないか?という思いが頭をよぎるようになりました。とはいえ、成果が少ないと評価が下がり、予算が削られてしまうかもしれません。こう考えていたら、なかなか資料作りが進まなくなってしまい、このペースで間に合うだろうか?とさらに不安になってきて、やる気がなくなってしまいました」

 このように不安を喚起する思考の背景には、多くの場合“悲観的予測”が横たわっています。Dさんの場合は、「間に合わないかもしれない」「求められている水準に達していないかもしれない」「評価が下がってしまうかもしれない」などです。悲観的な予測は不安の要因にもなりますし、エネルギーを現在から引き離し、未来へと向かわせます。Dさんは未来の不安が強くなり、今取り組むべき作業にエネルギーが向けられなくなっていました

不安解消のエクササイズ
 この“悲観的予測”に対して、まず、未来は100%予測できないという視点を導入します。未来は100%予測できないという視点を持つと、不安を喚起する思考を正当化しようとする態度から、自分を探求していこうとする方向へシフトしていきます
 探求へとシフトしたら、次に、Dさんの思考が自分を苦しめる結果になっていることや、不安にさせるのはDさんの思考であり、今のありのままの体験ではないことへの気づきを促します。そして、それはDさんにとってどういうことだと感じるか、時間をかけて考えてもらいます。

 Dさんは、「求められている水準に達していないかもしれない」「評価が下がってしまうかもしれない」という考えの背景に目を向け、高く評価されたいという気持ちがあることに気づきました。そして、主任に昇格した気負いもあり、いつの間にか5年の実績以上の高い評価を望む気持ちが生まれていたかもしれない、と考えました。
 また、予算のことは、会社の業績や事業展開によって変わるので、自分が責任を負うことではないと思い、余計な力が入っていたことに気づきました。

 さらにDさんは、悲観的な予測をすることは自分自身にとってどんな意味があるのだろうか?と考えました。すると、先ほど、実績以上の高い評価を望む気持ちが生まれていたのかもしれない、と考えた時、一方でその考えを認めたくないという気持ちもあることに気づきました。そして、悲観的な予測というものは、もしかしたら、自分が見たくない感情や現実を覆い隠し、直面しないようにしているのかもしれない、という考えに至りました。

 Dさんは、今取り組むべき作業にエネルギーが費やせなくなっていたことを強く自覚し、資料作りに意欲を持てるようになっていきました。

※システム・センタード・アプローチの「不安解消のエクササイズ」を適用したケースです。
posted by MSCOスタッフ at 00:00| 架空ケース

2016年08月31日

架空ケース:「失敗が怖くて前向きになれない」

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<架空のケースを元に、実際に起こりがちな悩みとカウンセリングのアプローチを紹介しています>
 「失敗が怖くて前向きになれない」ことを悩み、軽いうつ症状もあるCさん(20代 会社員 男性)。

 仕事で、先輩として後輩のいい見本にならないといけないと思って、周りの目を気にしてしまう。そこまで求められていないのに、空回りしてしまって、周りの人に評価されていないと、自分にイライラしてしまう。といったことが続いているそうです。

自分の中の審査員
 詳しくお聞きすると、どうやら心の中で自分自身を審査する部分が強くなっているようです。“自分の中の審査員”は、両親からの影響を骨組みにして、さまざまな経験や自分なりの感じ方で形作られているものです。これは、誰もが大なり小なり持っているものですが、強くなりすぎるとバランスを崩しやすくなります。

   Cさんの場合は、「お兄ちゃんなんだからしっかりしなさい」といった母親からの日常の言葉かけから始まって徐々に身についた“お兄ちゃんらしさ”が、審査基準になっているようです。それ自体は自然なことなのですが、大人になった今、なぜバランスを崩すことになったのでしょう?

行動基準・評価基準がわからない
  社会人になったCさんは、憧れを感じる先輩に出会えて、その先輩に認めてもらおうと日々頑張るようになりました。しかし次第に焦り、イライラするようになっていきました。

 先輩のようになりたいとがんばっていると、“自分の中の審査員”は気づかないうちに『“お兄ちゃんらしさ”を発揮すること』からいつの間にか『“その先輩のようなお兄さん”でなければダメだ。』というように審査基準を変えてしまったのです。

 そうして「この自分のままではダメだ。」と思うようになり今の自分は価値のないもののように思えて、どうしたらいいのかすっかりわからなくなってしまったようでした。

自分らしい行動基準・評価基準の獲得
  自分の基準を見出すというのは、意外と難しいものです。自己中心的な理想を掲げても駄目ですし、周りから取り入れたものばかりでやっていこうとしても、芯のないハリボテになってしまいます。基準にする自分というのは、いったいどんな自分なのか。カウンセリングでは、自分らしい行動の基準や評価の基準を見い出し、取り戻していく作業を丁寧にしていきます。

   Cさんとのカウンセリングでは、まず自分に対して審査員の目でみていることに改めて気づかせ、ゆっくり考えを巡らせてもらいました。そこから、いつも審査員でなくても良いのではないか、自分をモニターすることは大事だけれど、そこに審査をいれなくても良いのではないかと考えてもらいました。

  次に、いつの間にか先輩のようにならなければいけないと思っていたのは、どこから来ているのかを振り返りました。社会人になって自分が身につけてきた“お兄ちゃんらしさ”が通用しなくなったと感じて、新たに自分のモデルとなる人を無意識に探す気持ちがあったことがわかってきました。

 それに気づくと、もう少し、自分の個性や経験を大切にしてもいいのではないかと感じるようになり、自分が持っているのに放り出してあるものを掘り起こして、活用できるものを探す作業になっていきました。その頃には、Cさんは自分を肯定できるようになっていて、前向きな気持ちをもてるように変わっていました。

posted by MSCOスタッフ at 23:17| 架空ケース

2015年07月03日

架空ケース:「新しい職場でうまくふるまえない」

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<架空のケースを元に、実際に起こりがちな悩みとカウンセリングのアプローチを紹介しています>
 (2016.8.31 「『ペルソナ』を掛け替えることで自信をとりもどす」より改題)
 転職してから、何かとしり込みするようになったことに悩んでいるBさん(20代 会社員 女性)。

 自信が持てずに新しい仕事も自分にはできない気がしてしまいます。転職すると、誰もが新しい環境に踏み出したことでの期待と不安を大きく感じるものです。Bさんはそういった期待と不安だけではなく、それまでの自分のままではやっていけないように感じたと言います。Bさんにとって、それまで自分の外側に向けていた顔=『ペルソナ』をはずして、新しい自分・環境にフィットする新しい『ペルソナ』を作ることが必要になってきたと言えるかもしれません。しかし、新しい『ペルソナ』への掛け替えは、どんな態度やキャラクターを演じるかといった表層的なことではありません。

『ペルソナ』の役割
『ペルソナ』というのは、仮面を意味する言葉ですが、素顔を隠すという意味だけで片づけられない役割があります。ひとが外界へ向ける顔、自分の身の回りの環境になじんで活動していくために身に付ける“衣服”のようなものと言えます。実際、私たちは自然と状況・役割・人間関係などに合わせて一定の発言・行動をしています。

 『ペルソナ』はそんな風に生活をスムーズに送ることを助けてくれます。それだけでなく、その『ペルソナ』を身につけることで発揮される、いわば“もうひとりの自分”が活躍できる機会を作ってくれもするのです。そこで大切になることは、『ペルソナ』が、身につける“中身”の自分自身に合った、生きたものかどうかです。そうでなければ、自分を硬く拘束する殻になりかねません。

『ペルソナ』を掛け替える
 カウンセリングでは、まず“中身”の自分自身の点検作業をしました。自分史を振り返って、自分の棚卸しです。“棚上げにしてきた自分”“取りこぼしてきた自分”をひとつひとつ手にとって見返していきます。

 Bさんは、新入社員の頃から仕事を教えてくれる先輩に頼りがちだった自分を語ります。「末っ子だから」と、いろいろな状況で誰かに頼りながら切り抜けてきた自己イメージです。Bさんの『ペルソナ』は“末っ子キャラ”のようでした。

 詳しく自分を振り返っていくうち、高校では部活動で大きな大会を目指してリーダーシップをとっていたことを思い出しました。「子どもだった、怖いもの知らずだった」と振り返りながらも、集団の中で役割を引き受けて行動する自分を忘れていたとも言います。

 見えてきたものは、もともと“末っ子キャラ”だという意識。そして、先輩社員との関係でその『ペルソナ』がフィットしたことで、『ペルソナ』を自分だと捉え、自分を限定してイメージしてしまっていたのでした。

 Bさんは自分の中に、“取りこぼしてきた自分”が見つけられ、難しいと思えていたコトにも向き合える自分がいたことを発見したのでした。その発見は、今の自分には“まだ見えていない自分”がいるという可能性を感じることでもありました。そうしてBさんの転職の期待と不安は、「不安<期待」となって、新しいステップに踏み出していきました。
タグ:ペルソナ
posted by MSCOスタッフ at 00:17| 架空ケース

2014年10月09日

架空ケース:「周囲の目が気になり、自分にダメだししてしまう」

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<架空のケースを元に、実際に起こりがちな悩みとカウンセリングのアプローチを紹介しています>
 (2016.8.31 「周囲の人の目を気にしてたり人と比べて、自分にダメだしばかりしてしまう。」より改題・改稿)

 オフィスワークをしているAさん(30代 公務員 女性)。

 彼女は周囲に溶け込んで仲良くすることを大事に仕事をしていました。次第に上司からも信頼されるようになって、ひとりで任されることも増えてきてきました。しかしそうするうちに、周りの人の目がとても気になるようになってきました。
 そんな中で、頼ってくれる後輩は明るくていい子。他の人ともうまく付き合って、どんどん仕事を覚え、楽しそうにしています。そんな後輩が悪いわけでもないのに、顔を合わせると「ダメな自分より出来る子」に感じられて、なんだかイライラしてしまいます。そしてそう感じてしまうことがイヤになって自分にダメだしして落ち込んでしまいます。

悩みの構造
 周囲に溶け込もうとすることは協調性の表れですし、人間関係を温和なものにして安心して過ごせる居場所を作ります。反面、人に溶け込むうちに、合わせることが当たり前になり過ぎて、自分がわからなくなってしまうこともあります。Aさんが大事にしていたことには良い面と悪い面があるわけです。

 Aさんは、人に合わせるうちに信頼されるようになっています。これは自信につながってもいます。でも、いざひとりで任された仕事で自分の力を発揮しようとすると、溶け込むばかりではいられません。そうなると、どう振舞ったらいいのかわからない。 「合わせることに気を使う」⇒「周囲の目が気になる」という形に展開してきたようです。

 Aさんの「周囲の目が気になる」という悩みは、これまで自分にとって良い面になっていた「合わせること」から生まれているようです。そこに気付くことで、自分の悩みの構造を知ることになります。

 そして、先輩である自分に頼って周囲の人と楽しく付き合っている後輩は、自分が仕事を任せられる“成長”によって、なくなってしまった“妹”キャラクターをしているようで、自分の“席”を奪われたような気がするものかもしれません。そうすると、後輩と顔を合わせると、自分の居場所がなくなったような不安を感じることになってしまうのです。

こころのパターンのリフォーム
 Aさんは、周りに上手に溶け込んでいるのが良い人間関係だと思っていました。そうしないと職場で居場所がなくなる、周囲の人に嫌われてしまうと思っていたようです。

 カウンセリングでは、本人にとっては当たり前のことでも、そう思うようになった理由や経験があるのではないか、と注目します。例えば、Aさんは小学校でクラスでの流行にのらなかったことやちょっとした自己主張が、からかいの的になってしまってつらい思いをしたことがあるとか。その経験が、それから後のAさんの友達作りを変えて行ったかもしれません。

 意識しているわけではないのですがこころのどこかに理由や経験があって、いつの間にか自分の振舞いのパターンになっていること。それが、無意識に自由なはずの振舞いをしばっていることがよくあります。そしてそれは、何かのきっかけで悩みになってしまうことが多いのです。

 カウンセリングでは、そのパターンを抽出して組み直し、過去からのパターンを今の自分にあわせてリフォームしようと、話し合っていきます。
posted by MSCOスタッフ at 18:47| 架空ケース