2018年12月03日

内的世界と現実世界を結ぶ「中間領域」

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 学校高学年や中高生とカウンセリングをしていると、アニメや漫画、ゲームの話が出ることが少なくありません。大人やカウンセリングに抵抗や警戒の強い人たちが来談につながってもらうために、まずは本人にとって話しやすいアニメや漫画、ゲームの話から始めるということもあります。時には、自分で創作した漫画や物語について語ってもらうこともあります。
 
 ただ好きなもの、面白いものとして聞くだけでなく、その人の内面と共鳴するところがあるものとして話を聴いてくと、その人に対する理解が深まることが多いように思います。登場人物やストーリーが、その人の内面的な課題や葛藤を表していることがあるからだと思います。

 登場人物に深く思い入れがある場合、そのキャラクターがその人にとって「こうありたい」と思う理想の自分像であることや、憧れの対象を表していることもあります。まだ意識していない、自分の中に眠っている潜在的な要素を表していることもあるし、「傷ついている自己」のイメージであることもあります。そこには傷ついてきた自己の物語や自己形成の物語、癒しの物語が含まれているのです。
 
 こうした漫画や小説、ゲームが、実際に存在する作品であると同時に心の中を表すものでもあるということは、「外」であると同時に「内」のものでもあるということが言えます。


 小児科医で精神科医でもあったウィニコットは、「中間領域」という概念を使って内的世界と現実世界を結ぶ対象や遊びについて説明をしました。
 その中で、乳幼児が成長していく過程で、分離不安に耐えるために使用するぬいぐるみや毛布など、子どもにとって身近で愛着を持つものの存在を「移行対象」と呼びました。この移行対象は、現実に存在する、自分の不安を和らげてくれる対象(多くは母親)の代理として役割を果たします。

 これは、目の前に母親がいなくても、心の中に母親とのつながりを感じ(対象恒常性)、安心感が持てるようになるための橋渡しをしてくれます。つまり移行対象は、「現実世界」と「内的世界」を結ぶ、外と内の間に存在する「中間領域」としての機能を果たす、というのです。

 中間領域は、子どもの遊ぶことや芸術など文化的分野の中にも見ることができると考えられています。乳幼児期に限らず、「現実世界と「内的世界」の懸け橋である「中間領域」は、情緒の発達や安定に大きく寄与しているのです。


 また、「中間領域」は心理学の専売特許ではないようで、建築でも使われています。外と内の境界、たとえばマンションにおいてのパブリックからプライベートへと移行する空間のことを「中間領域」と言うのだそうです。ここを美しくデザインすることで、生活の豊かさ、精神的な安らぎが深まると考えられています。
 確かに、そうした空間は「必ずなくてはいけないもの」ではないのでしょう。しかしその「スペース」があることでゆとりが生まれたり、「外」から「内」、「内」から「外」への移行をスムーズにしてくれるのではないでしょうか。
 
 漫画や小説、ゲームも、そうした機能を持っているのかもしれません。心の傷つきが深いほど、その問題に向き合うことはとても怖く感じます。他者とかかわることに不安が強いほど、直接触れ合うことは恐ろしいのです。そのものを語るには生々しすぎる。感情が強く動きすぎる。そのようなときに、「内」と「外」、どちらの属性も持つ「物語」があることで、「スペース」が生まれ、安心して語れるようになるのかもしれません。
タグ:中間領域
posted by MSCOスタッフ at 18:24| 心理エッセイ