2016年11月28日

コミュニケーションは難しい!

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 私はいくつかの企業でカウンセラーとして勤務しています。研修やグループ懇談で、よくでる質問の一つが、上司、部下、同僚とどうコミュニケーションをとればいいかわからないということです。特に最近では、上司が部下に対して、また異性の相手に対してどのような発言がハラスメントになるのかという質問が多くあります。
 その際、伝え方や聴き方のコツをお伝えしますが、その前提として皆さんと共有したいこととしてお話しするのが、「コミュニケーションは難しい」ということです。

 コミュニケーションは「送り手と受け手と言語的・非言語的なメッセージを用いて、やり取りとして共有すること」で、送り手と受け手から成り立ちますが、送り手の発言は送り手が持っている価値観や経験から発せられ、また送り手のその時の声の調子や抑揚など態度やしぐさも加わって、受け手に伝わります。
 一方受け手は、受け手が持つ過去の体験や価値観、今おかれている状況によって、受け取り方が変わります。正確に相手に伝えること。相手の発言を理解するということは、基本的には難しく、『コミュニケーション』とはそこで生じるズレや誤解を調整することと言われています。 (参照:「自己カウンセリングとアサーションのすすめ」金子書房2000)

 こんな例がありました。Aさんは普段とても真面目にきちんと業務をこなすタイプの人です。上司はAさんにある業務を依頼しましたが、他の業務も重なって忙しい状況を気遣い「君に負担をかけているね」と伝えました。
 この時Aさんは「また自分ばかりに責任をおしつけられている」というマイナスな思考が浮かびました。過去に別の上司に多くの業務を依頼され負担が大きいのにもかかわらず「大変だ」という状況を伝えられなかった体験がありました。その苦しい過去の経験が反射的によみがえってしまったのです。
 しかし、少し冷静になりAさんは現在の上司の人柄や状況をあわせて考え、今回は“仕事の押しつけ”ではなく、“気遣いつつ依頼してくれた”と思考を変えることができ、その仕事に前向きに取り組むことができました。

 「やりとり時の背景やそれぞれ価値観が違うなんて当たり前!」そのように理解していたとしても、自分に負担がかかっている時などは、目の前にいる相手とは違う他者や、自分の価値観が重なって、メッセージを異なって受けてしまうことが起こります。本来ズレを調整してお互いを理解していくには、やり取りの繰り返しが必要ですが、現代は各々が多忙で、メールやSNS上のやりとりが中心となり、相手を理解しきれないまま負担を抱えていることが多いように感じます。
 そういう今だからこそ、コミュニケーションは基本難しいということ、やりとりの繰り返しが必要であること。それを共有することは、相手と自分の関係をより冷静かつ客観的に捉えられることに繋がるということを深く理解してもらう為に、私も繰り返しお話をしています。
posted by MSCOスタッフ at 22:09| 心理エッセイ

2016年11月10日

マインドフルネスで「感覚」を取り戻す

マインドフルネス

 先日、知人が「面白いから読んでみて」といって『バカ田大学講義録なのだ!』(文藝春秋社2016)という本を貸してくれました。赤塚不二夫の生誕80年企画として東京大学で開講された「バカ田大学」の講義内容を一冊の本にまとめたものです。
 各方面で活躍している方々が、様々な切り口で赤塚スピリットを語っていて、どの講義もとても面白いのですが、中でも養老孟司さんの講義内容は心理士として非常に興味深いものでした。

 「バカと天才の壁」というテーマの講義の中で、養老さんは、動物と人間の違いを「感覚」と「意識」という切り口で説明しています。
 動物のように「感覚」に依存して生きている生物は、「違い」の上で生きており、たとえば、教室に大勢の人がいると色いろな「違い」を感じてしまい怖くて逃げ出すだろうというのです。
 「意識」に依存して生きている人間は、違うものを「同じ」にする能力(「概念化」する力)を使い、知らない者同士とはいえ、そこにいるのはみんな同じ人間なので、受講者はみな「だいたいこの範囲におさまる行動をとるだろう」と想定し安心するわけです。
 しかし、「意識」ばかりを使っていると、「感覚」による「違い」がわかからなくなり世界は”ぐるぐる回し”になって出口が見えなくなってしまうのだそうです。

 養老さんの講義の結論は「感覚の復権」「感覚を取り戻そう」ということでした。最近、心理学の世界では、「マインドフルネス」という心理療法が注目されていますが、それはまさに養老さんのおっしゃる「感覚の復権」を目指すものではないかと膝を打つ思いがしました。注目を集めているのが、心理の世界だけなくビジネス界でも、というのが面白いところであり、また納得させられるところでもあります。現代に生きる誰もが、肥大化した意識に圧迫されて息苦しい思いをしているのではないでしょうか。

 私は、マインドフルネスの技法のひとつである「ボディスキャン」を自分のカウンセリングの中に取り入れているのですが(仰臥位ではないので厳密には技法とは違うのですが)、身体の「感覚」ひとつひとつに注目してみると、いかに私たちの感覚が多様で、また頼りないものであるかがよくわかります。養老さんが、「意識は増幅装置だ」という言い方をしていますが、私たちは、音や匂い、痛みや痒みなど、いろいろなものが入り混じった状態である生の「感覚」をそのまま感じるということが苦手で、「意識」を使うことでその混沌とした「感覚」の一部を増幅し自分の中に収めやすいように意味のあるものとして整理しようとするようです。

 「感じる」ということは、今この瞬間の自分自身の状態に気づくということです。「感じて気づくこと」が、実は気持ちを楽にし、大きな安心感を得ることにつながるのです。マインドフルネスでは、自分の呼吸に注目する瞑想や歩行瞑想、食べる瞑想、ボディスキャンなどを通じて、「今この瞬間の感覚」をそのまま感じることを目指します。不安感が起きたり否定的な考え方が浮かんでも、それをなくそうとすることはしません。養老さんの言葉を借りれば、意識で増幅せずあるがままを受け入れるということです。あるがままに「感じて気づくこと」で問題解決の糸口が見えてくることもあります。頭で考えずに「感覚」を通してしっかりと自分を感じることで得られる心の変化をカウンセリングの中で確かめてみてはどうでしょうか?
posted by MSCOスタッフ at 14:15| マインドフルネス