2015年12月15日

6年生とトランプ

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 私がスクールカウンセラーとして勤務している小学校の相談室には、トランプが用意してあります。休み時間になると子どもたちがやってきて、特に相談のない子たちが遊んでいきます。トランプは、3人以上で遊べるし、休み時間内に何ゲームか遊ぶことができるので、人気のアイテムです。
 最近、6年生の女の子たち4人組は「大富豪」に夢中です。声をかけあって少しでも早く配り、少しでもだくさん遊ぼうと工夫しています。「先生もやろうよ」とスクールカウンセラーの私も入れてくれます。5人でやる「大富豪」、相談室はかなりにぎやかになります。

 彼女たちは、ここに「相談」というよりも純粋に楽しみにきているようです。リーダータイプでみんなをまとめているAさん、面白いことを言ってみんなを笑わせるのが好きなBさん、おしゃれが大好きで見た目もお姉さんっぽいCさん、マイペースでときどきとぼけたことを言う天然キャラのDさん。キャラはそれぞれですが、仲はとても良さそうです。Dさんは、初めて相談室に来たときは「大富豪」のルールを知らなかったのですが、みんながやりながら教えてくれたので、すぐに覚えることができました。お互いにフォローしたりカバーし合える仲間関係が築けているのがわかります。

 この4人(と私を入れた5人)がトランプで遊んでいるときに、もし他の先生がやってきたとしたら、とても驚くことでしょう。時にはケンカでもしているかのようなにぎやかさです。「なんでそこでそれ出すの!」「ムカつく〜」AさんとBさんは勝つのに必死。お互いに文句の言い合いです。また、私がちょっとでも本気で勝とうとすると「先生、大人げないんですけど!」とCさんからクレームが入ります。「いいじゃない。勝負に子どもも大人もないよ」と私もニヤリと笑って返します。
 勝った子は思い切り喜び、負けた子はガックリと肩を落とします(スクールカウンセラーもです)。でもどの子も「もう1回!」チャイムが鳴るまで遊び続けるのです。そして休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴ると、「授業だ!」とあわててトランプを片付け始めます。あれほど文句を言い合っていた子たちも、ビリになってションボリしていた子たちも、協力し合って手早くトランプをまとめます。そして笑顔で「楽しかったー」「先生、また来るね!」と言って、あっという間に教室に戻っていきます。

 彼女たちが去り、急に静かになった相談室の中で、私は「ああ、彼女たちは遊びをまっとうしているな」という、何とも言えない安堵に似た気持ちを抱くのです。
 普段の4人は、お互いに気をつかい合いながら、仲良しの関係を保っているに違いありません。時には言いたいことを我慢したり、相手に合わせたくないのに合わせていたりすることもあるのでしょう。そのバランスを何とか保っているから、4人は仲良しでいられるのです。そのバランスが少しでも崩れると、仲間外れや、グループの分裂・対立が生じかねません。

 「自分が一番でありたい」「自分の思うとおりにしたい」という気持ちを全く持たずに生きていくことは不可能ですし、不自然です。そうした気持ちをこの4人は、トランプの中で上手に発散していると思います。「ムカつく!」このセリフを普段の関係の中で使ったら、途端に波風が立ちますが、トランプの中で相手が思うとおりのカードを出してくれなかった時に使う分には、許容されるでしょう。

 また、6年生にもなれば、大人への反発を抱いたり、反論したくなることもあるでしょう。そうした気持ちを真っ向から先生や親にぶつけたら、ただ怒られておしまいでしょうが、トランプの中でなら「先生、大人げない!」と思い切りぶつけることができます。そうです。彼女たちは、大人が大人げないことをした時には、そのことにきちんと気づく力があるし、本当は指摘したいのです。

 このように、「遊び」にはネガティブな感情や言いにくい気持ちを上手に表現、発散するための安全な仕掛けが用意されているのです。遊びの安全なところは「終わり」があることです。彼女たちの場合、チャイムとともに遊びは終わります。4人が「遊びをまっとうしている」と思うのは、「遊び」と「日常」にきちんと線引きをしているところです。トランプの勝敗で生じたネガティブな気持ちや葛藤を、教室には持ち帰らないのです。トランプを片付けるのと一緒に、相談室にきちんとおいていくのです。それができるのも「遊び」の力の1つです。

 卒業までの数か月。彼女たちがどのくらい相談室に来るのかわかりませんが、彼女たちの「遊び」がまっとうされるよう、この場と時間を見守っていってあげたいと思う日々です。
posted by MSCOスタッフ at 00:15| オフィス外での活動